東北大学は、青色光励起により強い赤色発光を示すシリケート系酸化物蛍光体を開発したと発表した。本蛍光体は、特殊な設備を必要とせず、より簡便な手法で合成することができる。照明およびバックライト用として、高演色が求められる白色LED素子への利用が期待される。
本研究では、これまで緑色蛍光体として知られてきたEu2+賦活カルシウムシリケートに対して、新しい物質探索技術である「結晶サイト工学」の概念に基づいてEu2+置換サイトを制御することで、酸化物としては初めてとなる実用的な青色光励起・赤色蛍光体を実現した。
現在、照明用途の白色LED素子の多くは、青色LEDと黄色蛍光体(YAG:Ce)を組み合わせた二波長型と呼ばれるタイプで、得られる白色光は赤色の光が弱く、照明用光源として使用するには演色性が低いという課題がある。
これに対して、青色LEDに緑色蛍光体と赤色蛍光体を組み合わせた三波長型白色LEDは、二波長型で不足している緑色および赤色領域の光を補うことができ、高い演色性を実現できる。
しかし、現在までに青色光照射で強い緑色発光を示す蛍光体は多数報告されているが、赤色蛍光体については実用的な蛍光体は数種類の窒化物のみに限られてい る。これらの窒化物蛍光体の合成には特殊な製造工程を必要とするという問題を抱えている。今後、蛍光灯代替など、白色LEDをより多種多様な光源へ利用す るためには、より簡便な手法で合成可能な赤色蛍光体が求められている。
本研究では、青色光励起により深赤色(650nm)で発光するシリケート系酸化物蛍光体Ca1.2Eu0.8SiO4を開発した。この蛍光体の母体となる物質は、アルカリ土類金属-シリコン複合酸化物であり、古くからセメント材料の主成分として使用されてきた。この物質に発光イオンである2価のユーロピウム(Eu2+)を高濃度賦活した場合、青色光励起において波長650nmを中心とする深赤色発光を示し、その発光強度は市販のYAG:Ce3+とほぼ同等。また、Ca1.2Eu0.8SiO4蛍光体は、波長350~500nmの範囲に強い励起バンドを有しており、市販の紫外および青色LEDによって効率よく励起することができるため、白色LED用に適した赤色蛍光体であるという。
さらに、Ca1.2Eu0.8SiO4は、現在市販されている窒化物系赤色蛍光体の製造において不可欠とされる高圧焼成炉のような特殊な設備を必要とせずに合成できるというメリットを有している。
今回開発した赤色発光酸化物蛍光体Ca1.2Eu0.8SiO4では、Eu2+サイト置換を実現するためにレアメタルであるEuを高濃度に使用している。今後の課題として、「結晶サイト工学」を駆使した材料設計を行うことで、Eu使用量の低減を実現させることをあげる。
近年のエネルギー問題への関心の高まりにより、照明素子としての白色LEDは急速に普及している。これは、従来の照明素子に比べて、低消費電力、長寿命で あり、照明分野での省エネルギー化が期待できるからである。また、同様の理由から、白色LEDは、平面ディスプレーや携帯電話などの液晶パネルのバックラ イト光源としても広く使用されている。
なお、本研究の詳細は、Angewandte Chemie International Edition誌(John Wiley&Sons,Inc.)に7月21日付けで公表されており、また日本セラミックス協会第27回秋季シンポジウム(9月9~11日:鹿児島大学) および第75回応用物理学会秋季学術講演会(9月17~20日:北海道大学)において口頭発表される。
図 青色光励起による強い赤色発光を示すシリケート系酸化物(Ca1.2Eu0.8SiO4)蛍光体の励起発光スペクトルおよび外観写真。